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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)6096号 判決

原告

中江義治

ほか一名

被告

福岡宇部コンクリート株式会社

主文

一  被告は、原告中江義治に対し、金一四二万九、二二四円および内金一二六万九、二二四円に対する昭和五四年一一月六日から、内金一六万円に対する昭和五五年六月二一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告中江ハツミに対し、金一四七万二、〇六四円および内金一三一万二、〇六四円に対する昭和五四年一一月六日から、内金一六万円に対する昭和五五年六月二一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

五  この判決は、一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の申立

一  原告ら

1  被告は、原告らに対し、各金一、四四四万四、〇一四円およびこれに対する昭和五四年一一月六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二当事者双方の主張

一  原告らの請求原因

1  訴外浜野健次は、昭和五四年一一月六日午後三時二〇分ごろ、福岡県北九州市門司区上馬寄二丁目二番六号先丁字路交差点内において、自動車(大型特殊車、北九州八八や一四四七号、以下、加害車という。)を運転中、訴外中江泰光(当時六歳、以下、被害者という。)を轢過し、よつて、被害者をして即死せしめた。

2  被告は、加害車の運行供用者であつて、右事故によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

3  原告中江義治(以下、原告義治という。)は、被害者の父、同中江ハツミ(以下、原告ハツミという。)はその母であつて、共に被害者の相続人である。

4  右事故によつて、被害者並に原告らの被つた損害は左のとおりである。

(一) 被害者の損害

逸失利益金三、一〇三万八、〇二八円

被害者の事故(死亡)当時の年齢が六歳であるので年収金三三七万六、〇八四円(賃金センサス昭和五三年の産業計、企業規模計、学歴計、年齢計の平均給与額、きまつて支給する現金給与額金一九万五、二〇〇円、年間賞与その他特別給与額金六六万二、三〇〇円を基礎として、昭和五四年度、昭和五五年度と夫々六%のべースアツプを加算して算出した額。尚昭和五五年度を基準にしたのは本訴提起の時を基準にすべきものと考えたからである。)から生活費五〇パーセントを控除した額に、六歳のホフマン係数一八・三八七を乗じて得た額である。

(二) 原告義治の損害

(1) 医者の費用 金一万二、九〇〇円

(2) 文書料 金一、三〇〇円

(3) 慰謝料 金七〇〇万円

被害者は、同原告の次男であつて、これに寄せる愛情と将来に対する希望を託していた父親として本件事故によつて被害者が死亡したことによる精神的苦痛に対する慰謝料は、如何に低く見積つても金七〇〇万円は下らない。

(4) 被害者の損害額についての相続分

金一、五五一万九、〇一四円

前述のとおり被害者は昭和五四年一一月六日死亡したので、同原告はその損害額三、一〇三万八、〇二八円の二分の一を相続した。

(5) 弁護士費用 金一〇〇万円

原告義治は、本件訴訟の遂行を弁護士山本実に委任し、勝訴の場合、日本弁護士連合会報酬等基準規程に従い、手数料及び報酬を支払う旨約しているので、弁護士費用として、本件訴訟の請求額、事件の内容、その他諸般の事情からすると、原告ハツミの弁護士費用と合算して少くとも金二〇〇万円が相当因果関係にある損害というべく、原告義治の負担分として、内金一〇〇万円が損害額となる。

(6) 以上のとおり、原告義治の損害額は、金二、三五三万三、二一四円となる。

(三) 原告ハツミの損害

(1) 慰謝料 金七〇〇万円

被害者の母親として愛する次男を本件事故によつて死亡させた精神的苦痛に対する慰謝料は金七〇〇万円を下らない。

(2) 被害者の損害額についての相続分 金一、五五一万九、〇一四円

原告ハツミは、被害者の相続人として、その損害額金三、一〇三万八、〇二八円の二分の一を相続した。

(3) 弁護士費用 金一〇〇万円

前記義治と同様ハツミの負担分として金一〇〇万円が損害額となる。

(4) 以上のとおり、原告ハツミの損害額は、金二、三五一万九、〇一四円となる。

5  損益相殺

原告らは、右各損害の合計金四、七〇五万二、二二八円のうち、医者の費用金一万二、九〇〇円、文書料金一、三〇〇円、死亡損害補償費一、八一五万円、合計金一、八一六万四、二〇〇円を自動車損害賠償責任保険(以下自賠責保険という。)から支払を受けた。よつて、これを右金四、七〇五万二、二二八円から差引くと、残額は金二、八八八万八、〇二八円となる。よつて、原告らの損害は、その二分の一宛、即ち各金一、四四四万四、〇一四円が、夫々の額となる。

6  よつて、原告らは、被告が原告両名に対し、各金一、四四四万四、〇一四円およびこれに対する昭和五四年一一月六日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

二  被告の答弁と主張

1  答弁

請求原因1の事実中、加害車の車種の点は否認するが、その余の事実は認める。加害車はコンクリートミキサー車であつた。同2の事実は認める。同3の事実は知らない。同4(一)の事実は否認する。同4(二)の事実中、医者の費用が金一万二、九〇〇円、文書料が金一、三〇〇円であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。同4(三)の事実は否認する。同5の事実中、原告らが自賠責保険から金一、八一六万四、二〇〇円(医者の費用金一万二、九〇〇円、文書料金一、三〇〇円、死亡損害補償費金一、八一五万円)を受領したことは認める。

2  主張

(一) 過失相殺

被害者は、本件事故前、前記交差点内を子供用自転車に乗つて一人でぐるぐる回つて遊んでいたものであるが、当時、自己の周囲三六〇度を見渡すことができ、当然、右訴外浜野運転にかかる加害車の進行状況に気付いていた筈であるにもかかわらず、その場に留つていたため本件事故に遭遇したものである。

また、原告らは、被害者の両親であり、被害者に対する監督責任を負つているものであるが、被害者に自転車を買与えるに際し、また、被害者が自転車に乗る際に、運転には十分気を付け、道路上で交通ルールに従わない危険な乗り方をしたり、遊び方をしないようにという注意を十分与えなかつた。仮に、右注意を与えたとしても、右事故発生態様から按すると、被害者が自転車で交通ルールに従わない危険な乗り方をしたり、遊び方をしないように十分監督していなかつたことが推認される。

したがつて、本件事故発生については、原告ら側にも右のような過失があつたから、被告は、本件適正損害額より、相当部分の過失相殺による控除を求める。

(二) 損害の填補

原告らは、前記金一、八一六万四、二〇〇円のほか、原告義治が被告より葬儀費用として金二〇万円を受領しているので、右各金員を本件損害額から控除すべきである。

三  被告の主張に対する原告らの認否

右主張事実中、(一)の事実は否認するが、(二)の事実は認める。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  被告の責任原因

請求原因1の事実中、車種の点を除くその余の事実および同2の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証の一、二、第二号証の一、二、第三、第四号証、第五号証の一ないし三、第六ないし第一一、第一三号証を総合すると、訴外浜野健次は、前記日時ごろ、加害車(大型貨物自動車)を運転し、前記交差点において、稲積方面から新原方面に向け後退し、いつたん停止したのち、泉ケ丘方面に向け時速約五キロメートルで発進左折しようとしたが、このような場合、進路直前ないし左側を十分注視するなどして交通の安全を確認したうえ、発進すべき注意義務があつたにもかかわらずこれを怠り、漫然と前記速度で発進左折した過失により、同交差点内で子供用自転車に乗つて遊んでいた被害者に加害車を衝突させ、その結果、即時同所において、同人を頭蓋骨複雑骨折等により死亡させたものであることが認められ、他に右認定事実を左右するに足る証拠はない。

右事実に照らすと、被告は、原告らの後記損害につき自動車損害賠償保障法三条本文所定の損害賠償義務がある。

二  損害

前掲各証拠と成立に争いのない甲第三号証によれば、本件事故により、被害者および原告らは左記損害を被つたことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。

1  被害者の分

(一)  逸失利益 金一、五九六万七、六六一円

被害者は、本件事故当時、六歳九か月(小学校一年生)の健康な男子であつたので、本件事故に遭遇しなければ平均余命の範囲内で一八歳から六七歳まで稼働し、その間、少なくとも男子労働者の平均賃金程度の収入をあげ得たものというべきところ、昭和五四年度の賃金センサス第一表の全産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者の平均給与月額は金二〇万六、九〇〇円、年間の賞与その他の特別給与額は金六七万三、八〇〇円であるから、右額を基礎とし、生活費として収入の五〇パーセントを控除し、ライプニツツ式計算方法により年五分の割合による中間利息を控除して被害者の逸失利益を算出すると、金一、五九六万七、六六一円(〔金二〇万六、九〇〇円×一二か月+金六七万三、八〇〇円〕×〇・五×一〇・一一七〇〔係数一八・九八〇二-八・八六三二〕=金一、五九六万七、六六一円)となる。

(二)  相続

原告義治は被害者の実父であり、原告ハツミは被害者の実母であつて、被害者の逸失利益請求権を各二分の一に当る金七九八万三、八三〇円(円未満切捨)宛相続したものである。

2  原告義治の分

(一)  医者の費用 金一万二、九〇〇円

(二)  文書料 金一、三〇〇円

医者の費用が金一万二、九〇〇円、文書料が金一、三〇〇円であつたことは当事者間に争いがなく、これによれば、右各費用は本件事故による損害と認めるのが相当である。

3  原告両名の分

(一)  慰藉料 各金五〇〇万円

前掲証拠によつて認められる本件事故の態様・程度その他諸般の事情(ただし、後記過失相殺の点を除く。)を総合すると、本件事故による原告らの精神的苦痛を慰藉するためには、各金五〇〇万円が相当であると認める。

(二)  弁護士費用 各金一六万円

前掲各証拠によると、原告らは、被告が本件損害賠償請求に任意に応じなかつたので、やむなく、本訴の提起と追行を原告ら代理人に委任し、同代理人に対し、手数料および報酬を支払うことを約束したことが認められるが、本件事案の内容・損害認容額等に鑑み、被告に支払いを命ずべき弁護士費用は原告らにつきそれぞれ金一六万円が相当であると認める。

そうすると、原告らの損害額は、原告義治につき金一、三一五万八、〇三〇円、原告ハツミにつき金一、三一四万三、八三〇円となるところ、原告義治が被告から葬儀費用として金二〇万円を受領したことは当事者間に争いがないので、同原告の総損害額は金一、三三五万八、〇三〇円となる。

三  過失相殺

前掲各証拠によると、被害者は、本件事故前、前記交差点内において、子供用自転車に乗つて一人でぐるぐる回つて遊んでいたものであるが、当時、周囲、ことに稲積方面から同交差点内に向け前記道路を後進してくる加害車を認識し得る状況のもとにあつたのであるから、その動向を注視し、適宜避難行為にでるなどして事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたにもかかわらずこれを怠り漫然と、同交差点内にとどまつていた過失により本件事故を発生させたものであることが認められる。ところで、被害者の過失を斟酌して過失相殺をするについては、当該被害者において、事故当時、事理を弁識するに足る知能を具えていることが必要であるが前記認定のとおり、被害者は、本件事故当時、六歳九か月の健康な男子であつて、小学校一年に在学していたものであり、また、前掲各証拠によると、同人は、かねてから、両親である原告らから自動車の動向に気をつけるよう言われていたことが認められるのであつて、この事実に照らすと、被害者は、本件事故当時、交通の危険を弁識し、これに従つて行動する能力を具えていたものと認めることができる。

そうすると、本件事故は、右訴外浜野の前記過失と被害者の右のような過失とが競合して発生したものといわざるを得ず、その過失割合は、前者が八〇パーセント、後者が二〇パーセントと認めるのが相当である。

そこで、弁護士費用を除く原告らの損害(原告義治分金一、三一九万八、〇三〇円、原告ハツミ分金一、二九八万三、八三〇円)につき、右過失割合で過失相殺すると、原告義治につき金一、〇五五万八、四二四円、原告ハツミにつき金一、〇三八万七、〇六四円となる。

そして、右各金員に各弁護士費用を加算すると、原告義治につき金一、〇七一万八、四二四円、原告ハツミにつき金一、〇五四万七、〇六四円となる。

四  損害の填補

原告らが自賠責保険から医者の費用金一万二、九〇〇円、文書料金一、三〇〇円、死亡損害補償費金一、八一五万円合計金一、八一六万四、二〇〇円を受領したことおよび原告義治が被告から葬儀費用金二〇万円を受領したことはいずれも当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右各金員のうち、原告義治が医者の費用金一万二、九〇〇円、文書料金一、三〇〇円、死亡損害補償費金九〇七万五、〇〇〇円、葬儀費用金二〇万円計金九二八万九、二〇〇円を、原告ハツミが死亡損害補償費金九〇七万五、〇〇〇円を前記各損害額に充当したことが認められる。

してみると、原告らが被告に請求し得る損害額は、原告義治につき金一四二万九、二二四円、原告ハツミにつき金一四七万二、〇六四円となる。

五  よつて、原告らの被告に対する本訴請求中、原告義治の金一四二万九、二二四円および弁護士費用を除く内金一二六万九、二二四円に対する本件事故発生日である昭和五四年一一月六日から、内金一六万円に対する本訴状送達日の翌日である昭和五五年六月二一日から各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分、原告ハツミの、金一四七万二、〇六四円および弁護士費用を除く内金一三一万二、〇六四円に対する右事故発生日である昭和五四年一一月六日から、内金一六万円に対する本訴状送達日の翌日である昭和五五年六月二一日から各完済まで前同様年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は、いずれも理由があるのでこれを認容するが、その余の部分は失当としてこれを棄却すべく、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本朝光)

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